第3章 目の不自由なお客様

(1)目の不自由なお客様とは

目の不自由なお客様の中には、まったく目の見えない方のほかに、弱視、視野狭窄(しやきょうさく)、色弱、白内障、緑内障など障がいの内容や程度はさまざまです。

目の不自由な方の中には、白杖(はくじょう)という白い杖を持ったり、盲導犬を連れている方がいます。歩き慣れた道、聞き慣れた風景の音などに囲まれていれば一定の安心感を持てますが、旅行は“未知の体験”の連続で、生活環境も違います。たとえば、日本ではかなり普及している駅ホームや道路などの歩行誘導ブロックも、海外ではあまり普及していないなど、目の不自由なお客様にとってはカンが働かず、行動でもかなりの制限を受けざるをえません。


(2)目の不自由なお客様への応対ポイントと留意点

  • まず最初に、こちらから声をかけて、次に握手をしましょう。相手の手の大きさや柔らかさ、握り方などによって、身長や体重、年令、その人がかもしだす雰囲気などを察してくれます。
  • 目の不自由な方には全盲と弱視の方がいて、それぞれ接し方が異なりますが、何が必要かを率直にうかがいましょう。
  • 白杖は目の不自由なお客様にとっては“目”にあたります。したがって、白杖を持つ手に触れることは厳禁です。ご案内するときは、白杖の反対側に立って、一声かけてから腕か肩をお貸しし、お客様の半歩前を歩きます。
  • 立ち止まって考え込んでいるときは、方向がわからないことが多いようです。必ず一声かけてから、お手伝いしましょう。
  • 場所や方向を説明するときには、前後・左右、何歩、何段、何メートルなど具体的に。階段やエレベーターでは昇るのか、降りるのか、何段なのか(例えば「7段昇ります」など)を正確にお伝えします。
  • 位置をお伝えする場合、時計の針の位置(クロックポジション)で説明すると理解されやすいようです。
  • 食事のときは、テーブルに並べられた料理の内容と位置を小声でお伝えしましょう。例えば「テーブルの9時の方向にパンがあり、3時の方向にスープがあります」といったように、時計の針の位置(クロックポジション)で説明すると分かりやすいようです。
  • お客様が盲導犬とご一緒のとき、動物が好きだからといって、いきなり盲導犬に手を触れるのは避けましょう。盲導犬にとっては仕事中で、集中力が妨げられます。
  • 盲導犬は食事、排泄等について訓練されています。また、身体障害者補助犬法により、国内の交通機関、ホテル、レストラン等でも受入れは義務付けられています。
  • 海外の場合は、盲導犬であっても、入国の際に動物検疫が必要です。国によっては数カ月間も手続きにかかる場合がありますので、必ず出発前に関係機関に問い合わせることが必要です。


◆宿泊施設において配慮する点

項 目

チェック内容

客室

  • 緊急時の避難に備え、できるだけ低層階やエレベーター近くの部屋をリクエストする。しかし、お客様が眺望の良さを望む場合には、そのことにも留意する。

バスルーム

  • シャワーは手でもてるタイプ(ハンドシャワー)のものか
  • 弱視者にとって暗すぎないか

通路など

  • 複雑に入り組んだ構造になっていないか
  • 誘導ブロック、手すりはあるか

エレベーター

  • ボタンのそばに点字での案内はあるか
  • 音声で階数を知らせる案内はあるか

客室入口

  • 点字または浮彫り式の室番号表示はあるか

施設案内

  • 点字での説明はあるか

その他

  • 盲導犬が同行する場合には、トイレの場所などの確認をする。
  • チェックイン時に必ず本人に避難経路の確認をしてもらう。
  • 必要であれば、部屋までのご案内を係員に依頼する。


◆航空機を利用する際の留意点

場面

チェック内容

チェックインカウンター

  • お客様の特別な手配に関する予約を航空会社に早めに確認する。 (座席の指定、搭乗口までの誘導など)

機内

  • 同行添乗員は客室乗務員と特別な手配内容やお客様のコンディションについて確認をしておく。(点字案内など)
  • トランジットで途中待機となる場合には機内に留まるのか、待合室に行くのかをお客様に早めにお知らせする。

その他

  • 現地旅行会社の係員とは特別な手配内容(介助者の手配、食事サービス時の配慮など)について早めに確認しておく。

◆鉄道を利用する際の留意点

場面

チェック内容

乗車・降車

  • ホームの転落事故や列車への接触事故に十分に注意する。
  • 荷物の忘れ物がないかを確認する。

その他

  • 駅構内・車内のトイレの場所を早めに確認し、ご案内する。


◆船舶を利用する際の留意点

場面

チェック内容

出発前

  • お客様の特別な手配に関して、船会社に早めに依頼をする。
  • 盲導犬が同行する場合において、寄港地によっては、動物の下船が許可されない場合もある。 また証明書が必要な場合もあるので、事前に寄港地の税関に確認をしてもらう。

船内

  • 複雑に入り組んだ構造になっていないか
  • 点字での施設案内の説明はあるか
  • 通路に誘導ブロック、手すりはあるか
  • エレベーターのボタンのそばに点字での案内はあるか
  • エレベーターに音声で階数を知らせる案内はあるか
  • 個室客室入口に点字または浮彫り式の室番号表示はあるか

その他

  • 盲導犬が同行する場合には、補助犬用のトイレの場所などの確認をする。


◆観光施設等を利用する際の留意点

場面

チェック内容

 

  • イヤホンガイド等の音声案内の手配。
  • 混雑している場合には、安全面に特に気を付ける。


(3)耳の不自由なお客様に起こりうる事故・トラブル

①買い物でおつりを確認できなかった

*高価なものの買物や高額紙幣での買物の際には、同行者と一緒に。


②その他

目の不自由な婦人に付き添ってきた配偶者も弱視であり、添乗員は旅行中2人の手を引いて歩き続けることになった。
*電話申し込みのケースで、受付けた担当者が「付添いの方は視力に支障ございませんか?」と確認すると、「見えます」ということであったが、実際は、「30cmくらいに近づけば見える」程度の強度の弱視であった。
*受付け時には、付添い人の能力について正確に把握する必要がある。上記の場合には、「不慣れな旅先で、お一人で奥様の旅行中のお世話ができますか? お困りの点はどんなことですか? 」といった確認をする。


(4) Q&A

Q.

目の不自由な方が一人で海外旅行に行きたい。行けるコースはあるか。

A.

(1) 身の回りのことが一人でできるかが問題。
(2) 添乗員は個人的・専従的介助はできない。したがって、海外旅行の経験が豊富な場合は別として、介助者が必要である場合が多い。

Q.

イギリスへ障がい者10名を含む25名のツアー。視覚に障がいのある方の出入国カードのサインは? なお、パスポートの申請は父親が代行、父親はツアーに同行しない。

A.

(1) 本人がサインすることが原則。ボール紙で枠を作ってあげるとよい。
(2) 同行者がサインし、出入国係官に事情を話す。書類の内容が正しければ問題になることはないと考える。
※パスポートを取得するにあたり、同行する家族の代筆も可能ですが、できる限り渡航者本人の署名が望ましいとされています。なぜならば、パスポートは取得後5年から10年間有効であり、今回の旅行と今後の旅行では同行者が常に同じ人であるとは限りません。また、単独での旅行の可能性もあるからです。 なお、パスポートへの署名は、海外渡航に関するすべての署名(ビザ申請書へのサイン、旅行小切手のサイン、出入国カードのサイン、ホテルのチェックインのサインなど)のもとになるので、書き慣れたサインがよいでしょう。なお、同行者がパスポートに代筆で署名した場合には、原則として他のすべての書類にも代筆することになります。

Q.

視覚障がいのある方のツアーで気をつける点は?

A.

盲導犬の取扱い、点字の情報や録音テープによるサービス、弱視者を対象に拡大字などのサービスが考えられる。

▲ページ上部へ戻る