(1)耳の不自由なお客様とは |
耳の不自由なお客様や言語障がいのあるお客様は、外見だけでは判断できません。そのことがかえって周囲からの理解や協力を得るのを難しくしている場合もあります。
一般的に耳からの情報は、日常得られるすべての情報のうち60~70%を占めるといわれています。たとえば、道路を歩いている時、自転車のベルや車のクラクションの音、店先から流れる楽しげな音楽、スーパーなどでの「只今から100円均一です!」という突然のお買得情報、ホームや電車内の事故や振替輸送のアナウンスなど、私たちが日ごろ何げなく耳にしている“音の情報”が一切入ってきません。火事や津波などの緊急時の警告音、アナウンスが聞こえないと生命の危険にも及びます。
コミュニケーションの最大の方法は会話です。声という音で相手に意思を伝えますが、言語障がいの方はスムーズに行えません。分からない場合は曖昧にせず、確実に相手の意思を確認しましょう。 |
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(2)耳の不自由なお客様への応対するポイントと留意点
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- 耳の不自由な方には生まれつき聞こえない(先天性)、幼少期に高熱などで聞こえなくなった(後天性)、事故などで言語を獲得してから聞こえなくなった(中途失聴)など原因はさまざまで、コミュニケーション方法が異なります。
コミュニケーション方法には手話、指文字、口話(読話ともいう。相手の口の動きで言葉を読み取る方法)、筆談、空書などがあります。しかし、耳の不自由な方がすべて習得しているとはかぎりません。指文字の苦手な方もいらっしゃれば、手話を知らない方もいらっしゃいます。それぞれに合わせたコミュニケーション方法を考え、最適な方法を事前に確認しておきましょう。
- 手話には私たちが使用する「てにをは」に相当するものがありません。また丁寧語と尊敬語の区別もあいまいです。そのため会話の際に、「よい」という意味で「よろしい」と表現して威張っているように聞こえる場合もありますが、誤解しないように注意しましょう。
- 旅行に必要な基本情報は、あいまいな形ではなく、書いたうえで確認をするなどして、確実に伝えるようにしましょう。
- 口話法を習得していらっしゃる方でも、口の形だけで読み取るのは難しいものです。例えば、「タマ ゴとナマコ」、「おじいさんとおにいさん」、「おばあさんとおかあさん」など口形は同じです。口の形が分かりやすいように、お客様の正面ではっきりとゆっくり話すことが大切ですが、月日や時間、場所など重要な内容は同時にメモに書いて確認をしましょう。
- 空港での搭乗ゲート・突然の変更、事故等の緊急事態の場合は、的確にメモにし、お渡ししてお知らせしましょう。日程表の変更も丁寧に説明し、理解しておいていただきましょう。
- 呼びかける場合には、驚かすことのないよう軽く肩をたたいたり前方からの時は手招きしたりします。
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◆宿泊施設において配慮する点
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項 目 |
チェック内容 |
客室 |
- 緊急時の避難に備え、できるだけ低層階やエレベーター近くの部屋をリクエストする。しかし、お客様が眺望の良さを望む場合には、そのことにも留意する。
- ノック、電話の着信を知らせるランプなどがあるか
- 振動式または光で知らせる目覚し時計の貸出しはあるか
- FAXの客室貸出しはあるか
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その他 |
- 非常時には、ホテル係員や添乗員がお部屋のドアを開けることもあるので、ドアチェーンは使用しないようにしてもらう。
- 緊急時の対応について、事前にお客様・ホテルと確認をしておく。
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◆航空機を利用する際の留意点
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場面 |
チェック内容 |
チェックインカウンター |
- お客様の特別な手配に関する予約を航空会社に早めに確認する。
(筆談ボードの機内での用意など)
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CIQ(出国審査・税関・検疫)手続 |
- 審査係官の質問に対する援助が必要な場合には適切な対応をとる。※
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機内 |
- 同行添乗員は客室乗務員と特別な手配内容やお客様のコンディションについて確認をしておく。(筆談ボードなど)
- トランジットで途中待機となる場合には機内に留まるのか、待合室に行くのかをお客様に早めにお知らせする。
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到着空港 |
- 入国審査の際、審査係官の質問に対する援助が必要な場合には適切な対応をとる。
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その他 |
- 現地旅行会社の係員とはお客様とのコミュニケーション方法(例:コミュニケーションカードの活用など)や特別な手配内容(例:宿泊施設へ特別に依頼しているサービスなど)について早めに確認しておく。
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※国際線利用時のみ
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◆鉄道を利用する際の留意点
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◆船舶を利用する際の留意点
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場面 |
チェック内容 |
出発前 |
- お客様の特別な手配に関して、船会社に早めに依頼をする。
(大型客船の場合、テキスト電話や光と振動でお知らせする装置などのTDDシステムを備えていることもある)
- 緊急時の対応について、船会社とお客様とのコミュニケーション方法を確認する。
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乗船・下船 |
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その他 |
- 宿泊の場合、非常時には、係員が客室内のドアを開けることもあるので、客室のドアチェーンは使用しないようにしてもらう。
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◆観光施設等を利用する際の留意点 |
場面 |
チェック内容 |
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- スケジュール(集合時間など)について、メモにするなどして確実にお伝えする。
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(3)耳の不自由なお客様に起こりうる事故・トラブル |
①お客様同士で、手話でのおしゃべりに夢中になり、添乗員(手話通訳者)の話に気づかないことがある。その結果、事故やトラブルにつながることもあるので、添乗員は十分注意する必要がある。
*バスの中などでは、携帯用白板などに、「注目!」と大書きして、大きく振るのも一方法。 |
②道に迷った時に備えて
道に迷った時は、他人とのコミュニケーションが取れないので、ホテルや集合場所まで戻ってくるのが非常に難しい。そのような場合に備えて、次のような準備をしておく。
*「ホテルカード」は、常時お持ちいただく。
*英語で、次のように記したカードを作っておいて、各人にお持ちいただく。
・「私は、耳が不自由です。私の名前は、○○です。路に迷ったので、××ホテルにいる添乗員の△△さんまで連絡してください」(Ⅰ have hearing difficulties. My name is ○○. As I lost my way, please get in touch with Mr .△△, tour conductor, at ×× Hotel. )
・「××ホテルまで連れていってください。」( Please take me back to Hotel ××)
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②ホテルのハンディキャップルームの使い方
欧米のハンディキャップルームは、自分で設備の操作ができる人を想定したものが多く、浴室はバスタブでなく、シャワーだけのところが多い。排水溝は備わっているが、シャワーカーテンを利用しても慣れない使用から、洗面台やトイレ周辺が水浸しになる場合がある。バスタオルを余計に借りる等、利用者の工夫が必要である。 |
(4) Q&A
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Q. |
耳の不自由な2人のシンガポール旅行。留意点は? |
A. |
(1) ホテル滞在中の緊急時等の連絡方法を確認する。
(2) ガイドに日本語を書ける人を配置する。 |
Q. |
『ろうあ』という言葉は差別語か? |
A. |
(1) 『◯◯県ろうあ連盟』と団体名にもあるように明確な意味での『差別語』にはあたらない。
(2) 障がい内容を「堅く」言うのではなく、耳の不自由な方、ことばの不自由な方、というように柔らかく言ったほうがよい。
(3) 耳の聞こえない方同士では、『ろう者』とか『聴障者』という言葉を使う場合もある。 |
Q. |
アメリカのホテルに滞在したい。
耳の不自由な方向けの設備にはどういうものがあるか? |
A. |
ADA法(障がいを持つアメリカ人法)に基づいて、アメリカのホテルでは、次のような機器を整えていることがある。
(1) タイプ式入力電話(TDD) (2) 音量調節電話 (3) 非常警告装置
(4) テレビのキャプション表示 (5) 電話点滅設備 (6) ドアーノック感知の設備など |
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